BTSが一石を投じた、K-POPアイドルというシステムの限界について

BTSが一石を投じた、K-POPアイドルというシステムの限界について

今年デビュー9周年を迎えた、世界的アーティストの『BTS(防弾少年団)』が2022年6月14日に公式YouTubeチャンネル【BANGTAN TV】で「グループでの活動を暫定的に休止する」意向を示しました。この発言により、その日のうちにSNSやネット上で瞬く間に拡散され、全世界に衝撃が走りました。

BTSについて

  • 別称:防弾少年団
  • 愛称:バンタン
  • 公式ファンクラブ:ARMY
  • 所属事務所:BIGHIT MUSIC所属

世界的アーティストの『BTS(防弾少年団)』は、JIN(29歳)、SUGA(29歳)、J-HOPE(28歳)、リーダーのRM(27歳)、JIMIN(26歳)、V(26歳)、JUNGKOOK(24歳)からなる、韓国の7人組ヒップホップグループです。

別称である、防弾少年団 意味は『10代・20代に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く』という意味がこめられているそうです。

活動休止の経緯

リーダーのRMは、公式YouTubeチャンネル【BANGTAN TV】に投稿された今回の動画の中で、今までを振り返り「自分だけの時間を過ごしたうえで、成熟されて自分のものにならないといけない。だが、10年間『BTS』の活動をしていて、物理的にスケジュールをこなすことに必死で、自分自身が成長できない」と話しています。

また、「『Dynamite』(2020年8月)まではグループが自分の手の上にあった気持ちだったけど、そのあとの『Butter』(2021年5月)や『Permission To Dance』(2021年7月)からは自分たちがどういうグループなのかわからなくなった」という心境を吐露しています。活動休止の理由について、メンバーは「多忙すぎて、方向性を見失った」、「休養と個々の成長による時間の確保のため」と語っています。今後は、ソロ活動を中心に行うということです。

BTSの発言から紐解く2つの問題点

多忙すぎるスケジュールとストレス

今回BTSが声を上げたことで、大きく問題視されているのが「K-POPアイドル界が抱える商業主義」の存在です。韓国のアイドル業界では、ビッグヒットさせるための海外進出が常識になっています。日本や中国をはじめ、海外進出に必要となってくるのは「商品としての完成度」です。そのため芸能事務所は、優れた人材を選び、お金をかけてパフォーマンスを鍛えたり、才能を伸ばしたり、ビジュアルを整えたりと徹底します。

BTSをはじめとする人気アイドルや人気グループは、その全てが事務所の管理下に置かれます。生活は事務所が保有している寮やマンションですし、トレーニングもしかりです。芸能事務所は、アイドルになりうる人材に事前にお金をかけて育て、投資をしているのです。

その後、デビューさせてからは投資した分と利益の回収を始めます。もちろんその利益を十分に受け取りたい芸能事務所側は、専属契約を結んで事務所へ還元して貰えるよう、ストレスを抱えるレベルのスケジュールで稼働させます。リーダーのRMが吐露していたように、業界内では人間としての成長よりも、『アイドル』という商品価値の追求を優先するのが至極当たり前となっているようです。

アイドルやグループが進みたい路線が、商品としての価値を少しでも損なうなら、売れている路線を推し進めるのが芸能事務所としては当然のこととなってしまうのですが、もちろんアイドルだって人間ですから、疲弊し、やりたいことができないジレンマや不満は膨らんでいきます。そして、メンバーたちの中に『消費されるだけで終わりたくない』という意志が芽生えたのかもしれませんね。

兵役問題

韓国で避けて通れないのが「兵役義務」です。韓国人の男性は、満20~28歳の誕生日を迎えるまでの間に、兵役に就く義務があります。それは、もちろん芸能人も一緒です。「多大なる功績を挙げたアイドルには、兵役を免除すべきだ」という世論も高まっていますが、現在のところ実現の可能性は残念ながら低そうです。

しかし、2020年12月1日には「K-POPアーティストの兵役期限を30歳まで延長する」という兵役法の改正が可決しました(別名:BTS法)。BTSの最年長メンバーであるJINは、3日後に28歳の誕生日を控えており、この改正のおかげで兵役を2年間先に延ばしました。

そして、2022年12月にJINは30歳を迎えます。それまでに必ず入隊をしないといけません。他のメンバーも年齢的に見て来年までには3人が、メンバー最年少のJUNGKOOKが30歳で入隊したとしても、2030年以降までは全員が揃わないということになってしまいます。

レジェンド・東方神起とBIGBANGに見る、K-POPアイドルの光と影

日本でも大人気だった、韓国のアイドルグループといえば、東方神起とBIGBANGがあげられます。東方神起もK-POPアイドルのシステムに翻弄されたグループのひとつかも知れません。東方神起 メンバーは所属事務所と確執から、泥沼の裁判劇の末に分裂してしまいました。離脱したメンバーはその後、薬物騒動を巻き起こしてしまい、現在は芸能界を引退しています。

同じく問題はあったものの、今年再活動へ踏み切ったレジェンドグループ・BIGBANG。2017年にT.O.Pが入隊したのを皮切りに、18年2月にG-DRAGON、3月にSOLとD-LITEが入隊しました。兵役義務によりメンバーが不在となるため、2018年3月に発表したシングル「FLOWER ROAD」以降、活動を休止していました。活動休止からまもなくして、メンバーのひとりが韓国を揺るがす大々的なスキャンダルを起こしてしまいます。その後、このメンバーは芸能界を引退し、事務所との専属契約も解除されました。ほかのメンバーは次々と兵役を終了し、2022年2月に4年ぶりに活動再開発表がありました。G-DRAGON、SOL、T.O.P、D-LITEの4人で再始動すると、4月5日新曲「Still Life」リリース。 全世界のファンが待ちわびていたこともあり、33地域でワールドワイドソング1位という快挙を成し遂げました。ここからまた破竹の勢いで世界へと返り咲いていくのかも知れません。兵役という問題点をクリアし、K-POPシステムの渦中へと戻ってきたBIGBANGはこれからどう進化していくのでしょうか。

最後に

今回BTSが吐露した難しさ同様に、現アイドルやグループの中にもこのK-POPシステムの歪みに苦しんでいるアイドルたちがいるのかも知れません。そんなアイドルたちにとって、今回のBTSが世界や韓国へ投じた一石が、K-POP業界の問題改善に向けて変化を起こしてくれることを願います。